about coffee

ミルの時間

 子どもの頃に大好きだった本があります。

「おおどろぼうホッツェンプロッツ」というドイツの子供向けの物語です。

 

 そのお話は、たしか、、、おばあさんがおおどろぼうホッツェンプロッツに連れ去られて、おばあさんを連れ戻すべく孫たちが奮闘する、、、というような話だったと思います。「おおどろぼう、、、ふたたびあらわる」「、、、みたびあらわる」と続いたくらいなので、人気の本だったようです。

 

 で、その本の中で、約30年後の私の記憶に残っているのは、おばあさんが誘拐されたのは、ミルでコーヒー豆を挽いていた時だったということなのです。

(先ほど調べたところ、なんと、おばあさんが誘拐されたのではなく、おばあさんのコーヒーミルが盗まれたという衝撃の事件だったようです)

 

 その本を読んだ頃はまだコーヒーを飲んだことがなかったので、私にとってそれがコーヒーという世界との出会いだったと思います。

 

 コーヒーミルは、すりつぶすときに熱がかかってしまうので、すりつぶすタイプよりカットするタイプの方がよいというように聞きます。なので、私も今はカットするミルでいいもの、店用には電動のものを使うのですが、それでも、手回しのコーヒーミルのあの木のぬくもりと存在感、ゆったりと強く引き出されていくこおばしい香りの魅力、そしてそれに手間をかけ時間を味わうという楽しみは、代えがたいものだと思います。

 

 余談ですが、ホッツェンプロッツが盗んだコーヒーミルは、孫たちが手作りした特別なもので、ハンドルをまわすと「五月はものみなあらたに」という曲を演奏するのだそうな。そんな特別なミルではないにしても、私がコーヒーを挽き、丁寧に淹れようとするとき、音楽のような香りに包まれているようにも思います。